PR
INTERVIEW
2024.01.15

CREATORS FILE VOL.1

複数の能力で道を広げる、新たなデザイナー像 石川和也
ヤフー株式会社で自社のブランディングに携わる石川和也(いしかわ・かずや)。 大手企業のデザイナーとして勤務しながら、その一方で、文具のアイデアコンペで数々の受賞歴を持つほか、けん玉の制作と販売、小学生スポーツのプラットフォーム・サイトを立ち上げたり。一見ばらばらに見える活動はすべて、社会を面白くするための仕掛けだ。この時代の新しいデザイナー像を予感させる、石川に話をきいた。
文・編集
佐藤恵美
写真
編集部

カー・デザインの分野から、コーポレートブランディングの仕事へ

——ヤフーでは、どのようなお仕事をしているのでしょうか。

ブランドマネジメント室と言って、会社全体のブランディングを行う部署にいます。サービスのロゴやウェブサイトの監修、ヤフーが主催するハッカソン・イベントの広報物や会場制作物のデザインまでを統括して行っています。企業CMの企画や絵コンテを描くこともあります。

——幅広いスキルが求められる仕事ですね。どのような経緯で現在の仕事に就かれたのでしょうか。

学生時代はカー・デザインを専門に学んでいました。プロダクトのほかに基礎的な学びとして、インテリアやグラフィックもやりましたが、ウェブデザインだけはやったことがなくて。自分の道を模索する意味でも、その埋まっていないピースを埋めたい、とIT企業の就職を考えました。IT業界は若い世代が多いこともあり魅力でした。入社してみると、思い描いていたウェブデザインの仕事ではなく、現在のコーポレート・ブランディングの仕事に配属されたのですが(笑)。でも思い切って切り替えたことを後悔していませんし、いろいろなことができる今の部署で本当によかったと思っています。

——本業とは別に、文具メーカーのコンペでは軒並み受賞されていますが、その受賞の秘訣をお伺いしたいです。会社の仕事とは違う分野ですが、コンペのメリットはあるのでしょうか。

日々いろんなアイデアを考えているので、そのアウトプットの一つとして応募しています。趣味のようなものかもしれません。でも学生時代よりも通りやすくなりました。今の仕事はコミュニケーションデザインでもあるので、どうやったら興味を持ってもらえるかという、見せ方や伝え方を日々考えています。ですので、パネルやキャッチコピーのつくりかたが変わったんだと思います。

アイデアの生み出し方

——サンスター文具のコンペで受賞された「コメクレル」は、そのアイデアが評価されてテレビ番組の「ワールドビジネスサテライト」でも紹介されていました。本業も忙しいと思いますが、コンペのアイデアはどんなふうにして考えているんですか。

僕の場合、アイデアは会議など複数で話している時よりも、アイデアのきっかけは一人から生まれるものだと思っているので、一人で考えたほうが生まれやすいのではないか、と思っています。電車で移動しているとき、ジムで運動しているときも常に何か面白いネタを探しているんです。特にある事象とある事象の共通点を見つけて、組み合わせを考えるのが好きで、«コメクレル»は米の形をした粘着テープを指に貼ると本が簡単にめくれます。「米」と「めくれる」をかけているんです。それから「付箋」と「指を折る」という行為をかけあわせた提案では、付箋に書くタスク管理を指で折るようにできたらどうだろう、と。«指折り付箋»ができました。こうした何かを「見立て」ることで、言葉を交わさなくてもそれ自体がコミュニケーションになります。「見立て」の商品でいつかブランドやお店をいつかつくれたらいいな、というのは夢の一つです。

サンスター文具「第24回 文房具アイデアコンテスト」審査員特別賞を受賞した«コメクレル»

——アイデアが生まれないときはどうしているのでしょうか。

コンペに限らないですが、アイデアが出ないときは頭のなかで海外旅行をするんです。脳内で遠い場所に自分を連れて行く。たとえば、ヨーロッパの湖でカヌーに乗っている自分を思い浮かべて、湖の岸辺から歩いたり、空港に戻ったり。変な人と思われるかもしれませんが(笑)。

——日常とは全く関係のない場所に行くんですね。

非日常の空間に行くと、リフレッシュしますよね。そうして頭を遠い場所へ飛ばすことで、考えが硬直してしまったときも、脳内がリフレッシュして柔らかくなる感覚があります。  
それからこれは持論ですが、アイデアを考えるときに、ある形に積み上げていく方法があると思います。たとえば粘土を少しずつ足して成形していくような。でも僕の場合は、大きな塊をドスンと置いてから、それを削って、叩いて、小さくしながら成形するやり方です。ブレストやフレームワークが前者の方法だとしたら、僕は飛び出したアイデアを荒削りしていきます。

——足すのではなく削るんですね。彫塑ではなく彫刻のような。

一度大げさに考えてから収束させたり、制御させたりするほうが、アイデアがたくさん出る。それは上司にも言われます。用件に沿った現実的なアイデアと、バズるようなアイデアを同居させられたら理想ですね。

30歳までは広くスキルと経験を積みたい

——副業についても伺いたいのですが、オンラインでけん玉を販売したり、小学生スポーツのプラットフォームサイトなども運営されているんですよね。

友人の影響でけん玉を始めましたが、やるだけではなくて、つくって売りたくなったんです。それで「東京けん玉」というブランドをつくりました。無垢材で塗装はせずに、使えば使うほど味の出るけん玉です。部品の仕入れ、制作、箱詰めまでを2人でやっています。自分がつくったものが製品として売れて使ってもらえるのは嬉しいですね。その一連の流れを経験してみたかったのです。もう一つの副業でもある「Funspo!(ファンスポ)」は小学生スポーツのチームを検索できるサイトですが、アンバサダーを集めるために営業に行くこともあります。数名のチームで会社やウェブサイトを立ち上げたばかり。これからさらに説得力のあるサイトにするための営業活動です。

味を楽しむ東京生まれのけん玉ブランド「Tokyo Kendama」

——カー・デザインの専攻から今の仕事に就職したときのように、常に新しいことにチャレンジされているんですね

まだまだ満足しきれない感じがあるからでしょうか。いろいろな出会いから、もっと面白いことがありそう、と体が先に動くケースが多いんです。人生の大きな目標は「世の中に爪痕を残す」なのですがヤフーではさまざまな人との出会いがあり、それが自分の将来にとっても何よりの価値になっています。30歳までに自分の軸を決めたいのですが、それまではとにかくいろんなことを広く経験したい。そろそろ30歳ですが、先ほどの「見立て」ることはこれからも続けたいので、そのあたりを軸にしていくのかもしれない、といまは思っています。

——石川さんのお話を伺っていると、デザイナーという肩書きが合わないような……。「デザイナー」という言葉をどのようにとらえていらっしゃるのでしょうか。

「面白いものや面白いことを生み出す人」くらいの広い意味だと思っています。「デザイナー」という言葉は意味が幅広いですよね。ドリブル・デザイナーと言われる方もいますが、「デザイナー」という言葉は、いろんなものにつけられる言葉で、ドリブルとかグラフィックとかコミュニケーションとかその対象はなんでもいい。見た人が「すごい!」と驚きを覚えるようなことを実現できるとデザイナーになるのかな。最大のデザイナーは経営者かもしれませんし、いまは一人ひとりがメディアになれる時代なので、何百万人のフォロワーがいる高校生のyoutuberもデザイナーなのかもしれません。

——石川さんの幅広い活動に共通することは、アイデアを生み出し、社会に驚きを提供することかもしれませんね。最後に、デザイナーとして一番求められているスキルはどのようなものだと思われますか。これから就職や転職を控える人に向けてアドバイスがあれば教えてください。

大事なのはコミュニケーションだと思います。たとえば、面接で何を見られるかというと、デザインのスキルよりも「この人と働きたいか」だと思います。デザイナーは表現のプロであり、驚きを仕掛ける人。自分で生み出したものを相手に伝えるときにうまく伝えられるかも大事です。そのスキルを考えるとコミュニケーションが重要かなと。時々、人事の方から依頼されて新卒の採用面談をすることもありますが、包み隠さずさらけ出してほしいな、と。僕も人前で話すのは苦手なので、就職活動をしていたときは、あえて面接の練習をしませんでした。そのほうが、その場で聞かれたことを新鮮な気持ちで答えられるので。「面接」や「就職活動」という響きって緊張しますよね。緊張をほぐすためにも「人に会いにいける」と考えるようにしていました。いつもの自分らしさをどうやって見せるかが大事だと思うので、居心地のいい空気をつくれる設計を、自分もできたらいいなと思っています。

  • 石川和也

    いしかわ・かずや 
    1990年生まれ、東京都在住。大学、大学院ではカーデザインを専門に学び、2015年、ヤフー株式会社に入社。 
    「第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」準グランプリ、サンスター文具「第24回 文房具アイデアコンテスト」審査員特別賞、「コクヨデザインアワード2020」ファイナリストなど受賞多数。オンラインでけん玉を販売する「東京けん玉」、小学生スポーツのプラットフォームサイト「Funspo!(ファンスポ)」などの企画・運営を手がける。