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INTERVIEW
2024.01.15

UIデザインとUXデザイン

渡邊恵太インタビュー前編 ――UIデザイン・UXデザインとは
明治大学インタラクションデザイン研究の准教授であり、シードルインタラクション株式会社代表である渡邊恵太へのインタビュー前編。 前編では、近年話題のUIデザイン・UXデザインとはなんなのか。その定義と、背景について話を伺った。
文・編集
編集部

デジタルテクノロジーと人間の認知

――最近UI/UXデザインが話題となっていますが、まず、UIデザインとはなんでしょうか。

UIデザインとUXデザインは並行して使われることが多いですが、実際はかなり違うものです。まず、UIデザインは、家電製品や車といったものづくりからコンピューターの普及に伴って一般の人でも使いやすくなるよう、ヒューマンインターフェイスデザインとして発祥したものです。例えば、ウェブなどのインターネットコンテンツはグラフィックとして美しくあるだけでなく、使いやすいナビゲーションがなければユーザーは継続して使いません。さらにウェブは見るだけでなく情報発信をするメディアであることを考えると、使いやすさ,わかりやすさが重要です。UIデザインはそういった、ユーザーに使い続けてもらうためにいかに使いやすくするかという考え方です。ユーザー数の獲得はビジネスに直結します。そのため、年々UIデザインが重要視されてきているのです。

 

 

――UIデザインが使いやすく優れたものには、どのようなものがあるでしょうか。

例えば、iPhoneが出た時は衝撃でした。あんなにグラフィックがUIとして滑らかに動くものは、それまで日本の携帯電話になかったからです。しかし、iPhoneが評価され、デザイナーたちが真似たのは、アイコンや製品の視覚的なデザインでした。理想としては動きの重要性を理解していても、CPUの性能が足りないのでカクカクにしかならない。見た目はiPhoneだが、内容がiPhoneにならなかったのです。

 

 

――ただタッチパネルになっているだけというものが増えましたよね。

そうですね。原因はiPhoneが評価された理由の言語化に失敗したことです。当初、アニメーションの斬新さが良いと思われていました。しかし実際は、デバイス上の動きが自分の身体の動きと一体化して感じる自己帰属感がよかったのです。自己帰属感のデザインがUIデザインにうまく適用できると、身体がスマホの中まで拡張するような状態になります。そういった点でいうと、最近ではVR系のコントローラーは面白いと思います。まだこれから良くなる要素もありますが、コントローラーさえもバーチャルにできるので新しいデザインの可能性がありますよね。VR上では、透明化と身体化の部分が結合しています。つまり、どういう世界が見えるのかを考えがちですが、自分の身体をどう定義して再設計していくかが次の課題になると思います。

 

UXデザインの定義を3つの観点から考える

――UXデザインはどのようなものでしょうか。

UXデザインの流れは3つあります。ひとつめは、UIデザインの上位概念としてのUXデザインです。インターネットコンテンツの使いやすさを追求し、より広い視点でUIデザインに注力しようとした結果、最終的にユーザーの体験が重要になってきたということです。ユーザーがデバイスを使い続けるよう製品価値を伝え、設計することをUXデザインと呼んでいます。ふたつめは、マーケティング方面から見たUXデザインがあります。これは製品の定義や輪郭を作っていくブランディングデザインです。80-90年代にかけて、車や家電といった物質的豊かさはある程度普及していきました。そして物質的な豊かさが満たされてくると、次は精神的な豊かさの追求を考えるようになります。思い浮かべて欲しいのは、スターバックスでの販売方法です。スターバックスではコーヒーを単純に売っているのではなく、コーヒーを飲むという経験を売っているのです。精神的な価値を提供することで原材料はあまり変わらないけれど、最終的に売上が3倍くらい違ってくる。そうした精神的豊かさを求める社会背景から、マーケティングの方面では経験経済がトレンドとなり、もとのUIデザインと繋がっていきました。その結果ユーザー体験のデザインが重要視されるようになってきました。もうひとつは、プロダクトデザインをする際の製品の質感、テクスチャーに触れた際の感じ方のUXデザインです。高級車と普通車ではドアをしめる音が異なったり、ボタンを押した感触が違います。そういった人体的な体験を設計していくことです。かなり現場的なデザインですが、それも体験のデザインです。

 

――体験という言葉が広い意味を含んでいるからこそ、各々の文脈で使ってしまっていることが多いのですね。

そうですね。どれも経験であったり体験という言葉で表現できてしまうので混乱しているのだと思います。UI/UXデザインという横並びの書き方の場合はおそらく、この3つ目の考え方である考え方である、ウェブ上でボタンを押した時のクリックの感触やアニメーションでの表現方法といった、UIデザインのことではないでしょうか。短期的なインターフェイスとしての現象レイヤーと、生活の中での経験となる文化レイヤー、ブランディングとしての社会レイヤー、それら3つに大きくカテゴライズできると考えています。

 

UIの観点から多方面に構想する

――渡邊さんのシードルインタラクションデザイン株式会社はどのようなサービスを展開しているのでしょうか。

会社製品としてはwebmoというモーターがあるのですが(現在、次期バージョン開発中)、主には、明治大学での企業共同研究におけるIoTプロダクトの試作開発をしています。ソフトウェアというよりもハードウェアをやっている会社ですね。大学では情報、デジタル、UIの考え方で研究を行い、弊社でハードウェアを作ることができるチーム体制となっています。例えば、クックパッドや資生堂と共同研究をしてきました。クックパッドさんとはフードプリンタの試作、資生堂さんとは化粧水や乳液を顔にかけるプリンタのような装置です。化粧水や乳液はケミカルには精度良く作られているのですが、ユーザーの手に渡った際、量やつけ方が正確にできていない。それで効果が出ないことがあります。そういった化粧品をユーザーインターフェイスやインタラクションデザインの観点から考えていきます。この装置は、日焼け時期には紫外線防止に頬の部分には重ねて塗るようになっていたり、新しい配合などができる新しい化粧料塗布装置を提案しています。あとはそれをいかにプラットフォームにしていくかというところですね。

 

webmo 制御基板も1つにパッケージングしたシンプルなステッピングモーター

――著書『融けるデザイン』でもおっしゃっていた通り、今後はUI/UXを基点にデザインというもの自体が多方面に発展していきそうですね。

そうですね、デジタル化によって今まであったメディアの境界、デザイン分野の境界というものが、どんどんなくなっていくと思います。そういう意味での融けるデザイン。実際に、私が依頼される案件のジャンルも境界なく、非常に多岐に渡っています。デジタル化によって、いい意味でも悪い意味でも、デザインは「体験」という一つの概念に集約されて捉えられるようになった。もはや定義すること自体が困難ですが、だからこそ可能性が溢れていると思いますね。

 

前編では今話題のUIデザイン・UXデザインの定義、そして融けていくデザイン領域の境界について話を聞いた。体験という言葉に全てが集約され、この先のデザインはどうなっていくのだろうか。

後編では未来のデザイン、その可能性について迫っていく。

  • 渡邊恵太

    明治大学総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 准教授。博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。シードルインタラクションデザイン株式会社代表取締役社長。知覚や身体性を活かしたインターフェイスデザインやネットを前提としたインタラクション手法の研究開発。近著に『融けるデザイン ハードxソフトxネットの時代の新たな設計論 』(BNN新社、2015)。