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INTERVIEW
2024.01.15

U30 creator vol.1 脇田あすか

――「クリエイター」と「個人」の境目が曖昧な社会へ向き合っていく
東京藝術大学デザイン科視覚・伝達研究室を卒業後、デザイン事務所コズフィッシュに入社。PARCOの広告、雑誌『装苑』など様々なデザインを手掛ける一方で、個展やアートブックなど個人の作品制作も行い、幅広く活動している。 新しい時代のクリエイティブを背負う若手デザイナー、脇田あすかさんに話を聞いた。

自分を納得させるモノづくり

――脇田さんがクリエイターを目指し、グラフィックをメインに専攻したきっかけはなんでしょうか?

中高生くらいのときにスタイリストになりたいと思ったことがきっかけで美術の世界に興味を持ちました。そこから美大を目指し、平面から立体まで幅広くなんでも制作できるイメージだった東京藝術大学のデザイン科に進学を決めました。学部生のときに、松下教授に『グラフィック好きなんだね。良い目を持っていると思う。』と言っていただけたことをきっかけに、ポスターやグラフィックを中心に制作するようになりました。同時期にアートブックフェアなど外部のイベントを知り、グラフィックに触れる機会が増えたことも影響しています。

――在学中もデザインのアルバイトはしていましたか。

学部3年生のときに、日本デザインセンターの色部研究所で夏休みの間だけお仕事をしました。それと同時期から1年間ほど隈研吾建築設計事務所にグラフィックスタッフのアルバイトとして入り、建築物のサインやロゴをやらせていただきました。隈研吾さんの会社はスタッフが多国籍なこともあり、フランクな雰囲気が居心地良かったです。また、院生のときはキギでインターンをしていました。デザインの考え方などとても勉強になりました。

――学生時代もかなり仕事としてデザインをしていたようですが、数をこなしていく中で変化はありましたか?

そうですね、成長はしていると思います。でも好みのような根本的な部分はあまり変わっていないので、学部生の頃の作品を今見ても、稚拙で多少の恥ずかしさはありますが、自分なりに好きな作品をつくれていたと思います。大学課題もお仕事も常に自分の納得いく物をつくろうと思っていました。当時、河北教授が担当されていた課題でいくつか案やラフをつくっていったんです。そうしたら、河北教授に「どれが結局やりたいの?どれがかっこよくなりそうなの?自分でそう思えるものをやりなさい」と言っていただいたことが心に残っています。自分が良いと思えたものをひたすらつくる、というスタンスが自分には合っているなと思います。

――その後、松下教授の研究室で大学院に進学し、卒業してからコズフィッシュに入社されるわけですが、どういった経緯で院進と入社を決断しましたか。

4年生の時点で就職を考えておらず、研究室で専門的なスキルを学ぼうと進学を決めました。大学院を卒業してからはフリーになるつもりでしたが、松下教授に「いきなりフリーになるよりもどこかに入ってプロから知識を全部受け継いだほうがスキルアップの近道かもしれない、考えてみてはどうか。」と言われ、就活してみることにしました。ただ就活がなかなかうまくいかず、そのことを嘆いていたら、祖父江さんからちょうどコズフィッシュで募集していると声をかけていただきました。もともと大学院1年生のときに祖父江さんが講義にいらして、お話が面白すぎてひとりでずっと笑っていたことがあったんです。10人もいない小さな講義だったので明るい子だな、という風に覚えてくださっていたみたいです。

「ドラえもん50周年ポスター」

――人柄としてもコズフィッシュが合っていたわけですね。昨年末にアートブック『HAPPENING』を出されたり、個展をされたり、ご自身の制作に重点を置いているように思いますが、そういったことがお仕事やキャリアに影響したりしますか。

会社以外の仕事や自主制作での作品づくりは大事だなと思っています。クライアントの意思や要望ではなくて、完全に自分が良いと思うものをつくる時間が全てのモノづくりに影響します。実際に、最近デザインした「ドラえもん50周年ポスター」も小学館の方がアートブックなどの私個人の作品から興味を持ってくださって声をかけてくれました。まさか『ドラえもん』のような誰もが知っている仕事に繋がると思っていなかったのでとても嬉しかったです。自主制作のような私のフルパワーでつくったものを見て声かけていただいた方がやりがいもありますよね。

――一方で、仕事のなかで印象的であったり、何か変化のきっかけになったものはありますか。

たくさんありますが、「PARCO 2019SS」のメインビジュアルのお仕事がとても印象的でした。そもそもコズフィッシュでアートディレクターとしてやった仕事が初めてで、会社としてもスタッフがアートディレクターになるのは新しい試みでした。お仕事の話をいただいたとき、はじめは寝れないくらいプレッシャーを感じていました。そのプレッシャーを切り抜けるきっかけとなったのが、同企画で映像監督をされていた井樫彩さんの姿を見たことですね。彼女はとても堂々と自分の意見を伝えていて、私もアートディレクターとして緊張している場合ではない、と思いました。あの時の緊張を乗り越えたおかげで今はだいぶ精神的にタフになりました。



 



 

「クリエイター」と「個人」の境目が曖昧な社会へ向き合っていく

ー新型コロナウィルスによりリモートワークが中心になってから仕事に影響はありましたか?

昔からつくることが好きで、生活と仕事の垣根を意識せずにやってきたのですが、リモートワークになったときは、個人制作が思うようにできなくなりました。以前は、出社して帰ってきてから自分の仕事や作品制作をする、というのは苦じゃなかったのですが、フルでリモートワークになってからは会社の仕事後に自分のことをやる気になれなくて。切り替えみたいなものは場所を変えることでできていたんだなと実感しました。

ータイプも分かれますよね。リモート全然OKって人もいますが、物理的な空間の移動がほしいって人もいますし。

そうですね。会社の仕事だけだったらリモートでもできるのですが、作品など個人の制作が絡むとバランスをとるのが大変でした…。あと、コロナの影響でインプットができなくなったのがつらいです。ネット上で情報収集などもできますが、新しいものに触れて取り入れられる機会がすごく減ったなと思っています。

――多くの展覧会の中止や延期もクリエイターには特に影響がありますよね。

「体験する」ことってインプットの中でもかなり重要なことだと思っているんです。展覧会にしても本にしてもビジュアルにしても、自分のつくるものは、見る・手にとるなどの体験そのものであるはずだから、そのインプットを自分ができていないと、どこかズレが生じてしまう感覚があります。あとは新しいものをつくるとき世情をどこまで反映させてつくるかとか…。いま世に出して違和感なくふさわしいものにしないといけないな、と意識してつくる機会が増えました。

『HAPPENING』

『HAPPENING』出版記念展示 2020.2.21~24

ー新型コロナウィルスの収束がまだ見えず、物理的な接触や移動にリスクが伴う状況が今後も続くと思いますが、脇田さんご自身の中でデザインへの向き合い方に変化はありますか?

自粛の影響で外に出ることが減り、ますます印刷物としてのポスターなど紙媒体を見る機会が減っているように感じます。モノとしてつくる意味があるのかすら問われてしまうこともあるので、つくるのならより一層意味のあるものにしたいです。例えば、チケットにしてもQRコードが主流になりつつある中で、わざわざ紙として一枚もつ意味であったりとか。そのモノの特性をより意識するようになりました。モノである意味として画像一枚に負けないようにしたいです。

――これからの社会と脇田さん自身のクリエイティブ、どのように作用しあっていくでしょうか。

コロナのことだけでなく、今世の中がセンシティブな話題で溢れていますよね。仕事をするときも、自分の表現によって誰かが悲しむんじゃないかとか…。もちろん企業的に気にする面もありますが、自身の個人的感覚に委ねられている部分も多いと思っています。自分がSNS使う時も、炎上してしまうと怖いなあと考えてしまいますね。ただ決して誰かを傷つけたいわけではないのですが、すごく気にしすぎて忖度してしまうのは違うと思っています。クリエイターとしての倫理観と、一個人としての倫理観が境目なく判断されるようになっている社会で、クリエイターとしても成長していかないといけないけれど人間としても成長していかないといけないなと思っています。

脇田さん自身のキャリアと、クリエイターのこれからについて話を伺った。クリエイターと個人の境界が曖昧になる社会に、忖度せずに向き合っていく。彼女の鮮度の高いクリエイティブの理由がここにあるのかもしれない。脇田さんがつくるデザインのこれからにますます関心が高まった。

  • 脇田あすか

    1993年愛知県生まれ。東京藝術大学デザイン科大学院を卒業後、コズフィッシュに所属。PARCOの広告、雑誌『装苑』のデザイン、『ドラえもん』の50周年ポスターなど。また個人でもアートブックなどの作品の制作・発表をしている。2019年に作品集「HAPPENING」を出版。 主な展覧会に「HAPPENING」(みどり荘ギャラリー、東京、2020)、東京藝術大学修了制作展「Triangle plus Square」(東京、2018)、東京藝術大学卒業制作展「HAPPENING」(東京、2016)など。2015年JAGDA学生グランプリにて準グランプリ、大学内で安宅賞を受賞。2016年の卒業制作展では台東区奨励賞受賞、 2018年の修了制作展でメトロ文化財団賞受賞。 脇田あすか instagram:https://www.instagram.com/wakidaasuka/