シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション 審査員 喜多俊之氏 インタビュー
新しいプロダクトデザインを募るコンペティション「シヤチハタ ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」がいよいよ復活する。1999年に第1回を開催して以降毎年開催され、商品化を前提としたコンペティションとして話題を呼んだが、2008年を最後に一旦休止。それから10年の年月を経て、満を持して再開の運びとなった。記念すべき再開第1回目のテーマは「しるしの価値」。長年「しるす」文化の創造に携わってきた企業シヤチハタにとって、原点回帰ともいうべきテーマである。
テーマ「しるしの価値」について、また本コンペへの期待を、審査員のひとり喜多俊之氏に伺った。【PR】
SPECIAL/INTERVIEW 2
――10年ぶりの「シヤチハタ ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」開催について、まずはご感想を聞かせてください。
日本では高度成長期にデザインが成長を遂げましたが、ここしばらくはデザインが少し遠くなっていました。機能やテクノロジーは重要なものですが、一方でデザインは思いやりを中心とした多くの要素をまとめる役割を担っています。そういう意味で、テクノロジーとワンセットのはずなんです。しかし日本では技術が偏重され、デザインがなおざりの時代が続いていたので、このままで大丈夫かな?と心配していました。そんな状況の中でのSNDCの再開は、非常にタイムリーだと思います。

――世界を舞台にご活躍ですが、この10年間で世界のプロダクト市場はどのように変わったと思いますか?
ネット社会が発達してあらゆる情報が世界中で共有できるようになり、国境を超えていいモノはいい、素敵なものは素敵なんだという時代になりました。世界スタンダードが蔓延している一方で、自分たちの国の文化や歴史などに目を向けたドメスティックなモノを大切にしようという萌芽もあり、両方が同居する時代になってきたと思います。気になることを挙げるとすれば、価格競争で同質化が進み、良く似たモノがあふれていること。オリジナリティではなく価格で競争しているわけですね。安いのはいいことですが、ただ安いというだけで購入するのは健全ではないような気がするんです。日本には着物や器など大切な品は修繕してでも使い続ける文化がありました。そういう愛着のあるモノと暮らすということにも目を向けてほしいと思います。
――プロダクトデザインにはどのような要素が必要なのでしょう?
機能性や安全性、価格などいろいろな要素が必要ですが、大切なのは「思いやり」だと思います。使う人に対しても、環境に対しても。私は、デザインというのは基本的には「ハッピー産業」だと思っているので、使う人が喜び、満足してくれるものであってほしい。使う人が幸せなら、それをつくったメーカーも幸せになり、いい循環が生まれますからね。また、幸せな気分にさせてくれるモノがあれば、そこからコミュニケーションも生まれます。人間は心の動物なので、そういう存在を相手に求めてもらえるようなモノをつくるのは、とても難しいし、素敵なことなんですよ。

――「しるし(印)の価値」というテーマについて感じていらっしゃることと、応募者へのメッセージをお願いします。
心の動物である人間にとって、モノへの思い出やイメージはとても大切です。ですから「しるし」は古代から無意識の内にも大切にされてきましたし、これだけはいくらコンピュータ社会になり人工知能が進んでも変わらないと思います。ハンコは自分の力で押して、初めて印がつく。その一瞬、行為が心とつながるんですよ。これはとても大切なことです。
ハンコは、持ち運ばなければいけなかったり、大切にしまっておかなければいけなかったりする。そこを突き詰めていくと形が生まれ、さらに思いをめぐらせると素材感や肌触りなどもイメージが湧いてきます。考える時のコツは、大衆を意識するより、家族や友達など身の回りの数人を念頭に、「この人だったらどうするだろう?」と想像すること。それ以上範囲を広げても、人はそれほど変わりませんから。
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シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション
◯ 応募受付期間
2018年4月1日 日 ── 5月31日 木 24:00◯テーマ
「しるしの価値」。自分であることの「しるし」(アイデンティティ)を表すためのプロダクトもしくは、仕組みをご提案ください。◯応募資格
・個人、グループ及び企業、団体。年齢、性別、職業、国籍不問。
・入賞した場合、10月12日(金)18時30分から東京都内で行われる表彰式に参加が可能なこと。(交通費補助あり)○審査員
喜多俊之(プロダクトデザイナー、喜多俊之デザイン研究所 代表)
後藤陽次郎(デザインプロデューサー、デザインインデックス 代表)
中村勇吾(インターフェースデザイナー、tha.ltd 代表)
原研哉(デザイナー、日本デザインセンター 代表)
深澤直人(プロダクトデザイナー、NAOTO FUKASAWA 代表)○特別審査員
舟橋正剛(一般社団法人未来ものづくり振興会 特別理事、シヤチハタ株式会社 代表取締役社長)
岩渕貞哉(「美術手帖」 編集長)◯賞
グランプリ1作品(賞金300万円) 準グランプリ2作品(賞金50万円) 審査員賞5作品(賞金20万円)特別審査員賞1作品(賞金20万円)※応募方法、その他詳細は公式サイトをご確認ください。
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喜多俊之 Toshiyuki Kita
プロダクトデザイナー。喜多俊之デザイン研究所 代表。大阪芸術大学教授。イタリアやドイツ、日本のメーカーから家具、家電、ロボット、家庭日用品に至るまでのデザインで、多くのヒット製品を生む。作品の多くがニューヨーク近代美術館、パリのポンピドーセンターなど世界のミュージアムにコレクションされている。著書に『デザインの力』(日本経済新聞出版社)、『地場産業+デザイン』(学芸出版社)、『デザインの探険』(学芸出版社)など。
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