• SPECIAL/INTERVIEW 5


    シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションー原研哉 Kenya Hara

シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション 審査員 原研哉氏 インタビュー

2018.3.20
原研哉 Photo by 筒井義昭

新しいプロダクトデザインを募るコンペティション「シヤチハタ ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」がいよいよ復活する。1999年に第1回を開催して以降毎年開催され、商品化を前提としたコンペティションとして話題を呼んだが、2008年を最後に一旦休止。それから10年の年月を経て、満を持して再開の運びとなった。記念すべき再開第1回目のテーマは「しるしの価値」。長年「しるす」文化の創造に携わってきた企業シヤチハタにとって、原点回帰ともいうべきテーマである。
テーマ「しるしの価値」について、また本コンペへの期待を、審査員のひとり原研哉氏に伺った。【PR】

SPECIAL/INTERVIEW 5

――コンペのテーマは「しるしの価値」ですが、「しるし(印)」「しるす(印す)」ということについて、原さんはどう捉えていらっしゃいますか?

ハンコとか印章というと古めかしく感じますが、「朱で印す」というのは歴史的なビッグアイデアだと思うのです。今の時代は色をふんだんに使うことができますが、色の氾濫はノイズを生み出し、環境を濁らせていくことでもあります。白い紙の上に墨で文字を書いたり、黒いインクで文字を印刷する、つまり、情報をひとまずモノトーンの状態で完結させておいて、大事なポイントや重要な承認事項を、赤や朱で際立たせるというのは、とても合理的な情報処理のかたちであったと思います。

白い紙の上に黒い墨で書いたり、黒いインクを刷ったりというのは、不可逆で取り返しのつかないことですから、それを達成するにはいつも程よい緊張が伴います。その達成を、成就させ、保証するものとして朱で印を押す。これはとても素敵なことです。これを古い習慣と単純に片付けないで、それを育んできた感受性を反芻してみるのも面白いのではないでしょうか。

――このコンペの開催は前回開催の2008年より10年ぶりの開催となりますが、この10年間で社会及びデザインはどう変化したと思いますか?

スマートフォンの出現と普及進化によって、世界がガラリと変わってしまったと思います。電卓やカメラ、録音機や、ダイアリー、もちろん電話もメールも、全てここに吸収されてしまったという感じがあります。一方で、アナログな文房具、たとえば万年筆やハサミ、シャープペンシルや出来のいいノートなどは、むしろしっかり残って、品質の良い、使い心地の良いのものが好まれているように感じます。そういう時代の変化を経て、再びこのコンペに呼び戻されたのは、不思議な感じがします。

――新しいコンペ及び応募者に期待することを教えてください。

審査員に中村勇吾さんが加わりました。応募者はおそらく審査員をどう籠絡しようかとアイデアを考えると思いますから、デジタル表現領域の第一人者が加わったことの意義は大きいと思います。今回、一次審査をネットで審査するのは効率が悪いと、最初に明快に言われたのは中村さんです。クリックして一つずつ情報を見ては閉じ、また新しいデータをクリックして開いて、というのは実際、効率が悪い。紙のファイルの方が断然効率がいいわけですね。また、従来の審査員も、この十年にどれだけ「成長」できたか、その変化を、審査を通して確認し合うのも楽しみです。応募される方も、おそらく大半は、かつてのコンペを知らない方々でしょうから、従来の傾向にとらわれない、新時代の着想に期待したいです。

  • シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション

    ◯ 応募受付期間 
    2018年4月1日 日 ── 5月31日 木 24:00

    ◯テーマ    
    「しるしの価値」。自分であることの「しるし」(アイデンティティ)を表すためのプロダクトもしくは、仕組みをご提案ください。

    ◯応募資格
    ・個人、グループ及び企業、団体。年齢、性別、職業、国籍不問。
    ・入賞した場合、10月12日(金)18時30分から東京都内で行われる表彰式に参加が可能なこと。(交通費補助あり)

    ○審査員
    喜多俊之(プロダクトデザイナー、喜多俊之デザイン研究所 代表)
    後藤陽次郎(デザインプロデューサー、デザインインデックス 代表)
    中村勇吾(インターフェースデザイナー、tha.ltd 代表)
    原研哉(デザイナー、日本デザインセンター 代表)
    深澤直人(プロダクトデザイナー、NAOTO FUKASAWA 代表)

    ○特別審査員
    舟橋正剛(一般社団法人未来ものづくり振興会 特別理事、シヤチハタ株式会社 代表取締役社長)
    岩渕貞哉(「美術手帖」 編集長)

    ◯賞 
    グランプリ1作品(賞金300万円) 準グランプリ2作品(賞金50万円) 審査員賞5作品(賞金20万円)特別審査員賞1作品(賞金20万円)

    ※応募方法、その他詳細は公式サイトをご確認ください。

    http://sndc.design

  • 原研哉 Kenya Hara

    デザイナー。デザインを社会に蓄えられた普遍的な知恵ととらえ、コミュニケーションを基軸とした多様なデザイン計画の立案と実践を行っている。日本デザインセンター代表。武蔵野美術大学教授。
    無印良品、蔦屋書店、GINZA SIX、JAPAN HOUSE、らくらくスマートフォン、ピエール・エルメのパッケージなど活動の領域は多岐。一連の活動によって内外のデザイン賞を多数受賞。
    著書『デザインのデザイン』(岩波書店刊、サントリー学芸賞)『白』(中央公論新社刊)は多言語に翻訳されている。

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