シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション 審査員 後藤陽次郎氏 インタビュー
新しいプロダクトデザインを募るコンペティション「シヤチハタ ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」がいよいよ復活する。1999年に第1回を開催して以降毎年開催され、商品化を前提としたコンペティションとして話題を呼んだが、2008年を最後に一旦休止。それから10年の年月を経て、満を持して再開の運びとなった。記念すべき再開第1回目のテーマは「しるしの価値」。長年「しるす」文化の創造に携わってきた企業シヤチハタにとって、原点回帰ともいうべきテーマである。
テーマ「しるしの価値」について、また本コンペへの期待を、審査員のひとり後藤陽次郎氏に伺った。【PR】
SPECIAL/INTERVIEW 3
――後藤さんにとって「しるし(印)の価値」とはどのようなものですか?
しるしと聞いて真っ先に考えるのは、やはり印鑑ですね。僕は落款が好きで、自分で石に彫ったこともありますし、コレクションも30個くらいあるんですが、僕にとっては手紙の最後に押したりする「気持ちを込めたしるし」なんです。しるしを残すことによって、自分の気持ちを伝える。そこにひとつの価値があると思っています。またその過程で、この気持ちを伝えるにはどんな紙がいいだろうとか、いろいろ考えたりするのも楽しいですし、そういうふうにどんどん関連して考えていくと、モノづくりは非常に面白くなると思います。

――今回の「シヤチハタ ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」は10年ぶりの開催となりますが、この10年間でプロダクトの市場はどう変わったと思いますか?
今までは街を歩いていると、魅力的なモノが目に飛び込んできたんですが、最近そういう経験はなかなかないですね。世の中にモノがあふれている上に、これまで自分でいろんなモノを買ったり開発したりしてきたので、目が慣れてしまったのかもしれません。でも見慣れているモノであっても、より魅力的に変わっていく可能性はあります。このコンペも、ゼロからまったく新しいモノを開発することだけにこだわらず、今あるものを進化させるという発想でもいいと思うんです。いいデザインというのは何年たっても飽きないものだし、奇をてらったような面白さはなくても、長く愛してもらえる。長く使われるというのは、やっぱり素晴らしいデザインなんですよ。

――後藤さんにとって、長く使いたくなるいいデザインとは?
テレンス・コンラン氏も言っていますが、デザインの基本は「PLAIN、 SIMPLE、USEFUL」、つまり、すっきりと美しく、シンプルで機能的であることだと僕は思っています。デジタル化が進んで時代が変わっても、人間の心や感性など内面的なものは変らないと思うんですよ。つまり、見てきれいだなとか、触って気持ちいいとか、そういう五感の喜びは昔も今も変わらないと思うし、人が使うモノにはそういう要素が必要です。たとえば、僕が愛用しているノートはフランスのプロダクトブランドのものなんですが、表紙周りがファブリックなんです。手触りが良くて、色柄も目に心地いい。持っていると、自然と絵や文章を書きたくなるんですよ。精神的な喜びや満足感を与えてくれるモノは、暮らしの質を上げ、豊かにしてくれる。そして社会をも豊かにしていく。デザインにはそういう大きな力があるんです。コンペに応募していただく方には、そのことを認識し、誇りをもって挑戦してもらいたいですね。いいモノをつくるには、世の中を変えるんだ、暮らしを豊かに楽しくするんだ、という意気込みが必要ですから。
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シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション
◯ 応募受付期間
2018年4月1日 日 ── 5月31日 木 24:00◯テーマ
「しるしの価値」。自分であることの「しるし」(アイデンティティ)を表すためのプロダクトもしくは、仕組みをご提案ください。◯応募資格
・個人、グループ及び企業、団体。年齢、性別、職業、国籍不問。
・入賞した場合、10月12日(金)18時30分から東京都内で行われる表彰式に参加が可能なこと。(交通費補助あり)○審査員
喜多俊之(プロダクトデザイナー、喜多俊之デザイン研究所 代表)
後藤陽次郎(デザインプロデューサー、デザインインデックス 代表)
中村勇吾(インターフェースデザイナー、tha.ltd 代表)
原研哉(デザイナー、日本デザインセンター 代表)
深澤直人(プロダクトデザイナー、NAOTO FUKASAWA 代表)○特別審査員
舟橋正剛(一般社団法人未来ものづくり振興会 特別理事、シヤチハタ株式会社 代表取締役社長)
岩渕貞哉(「美術手帖」 編集長)◯賞
グランプリ1作品(賞金300万円) 準グランプリ2作品(賞金50万円) 審査員賞5作品(賞金20万円)特別審査員賞1作品(賞金20万円)※応募方法、その他詳細は公式サイトをご確認ください。
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後藤陽次郎 Yohjiro Gotoh
デザインプロデューサー。デザインインデックス代表。
1994年にロンドンの「ザ・コンランショップ」を日本に導入し、商品構成からオリジナル商品の開発、デザインディスプレイの監修などを行う。その他「ペプシマン」、元麻布ヒルズ、六本木ヒルズレジデンスのモデルルームのインテリアコーディネイト、“二期倶楽部 東館”の総合 プロデュースなど多方面で活躍。
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