シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション 審査員 深澤直人氏 インタビュー
新しいプロダクトデザインを募るコンペティション「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(SNDC)」がいよいよ復活する。1999年に第1回を開催して以降毎年開催され、商品化を前提としたコンペティションとして話題を呼んだが、2008年を最後に一旦休止。それから10年の年月を経て、満を持して再開の運びとなった。記念すべき再開第1回目のテーマは「しるしの価値」。長年「しるす」文化の創造に携わってきた企業シヤチハタにとって、原点回帰ともいうべきテーマである。
テーマ「しるしの価値」について、また本コンペへの期待を、審査員のひとり深澤直人氏に伺った。【PR】
SPECIAL/INTERVIEW 6
――今回のコンペのテーマ「しるしの価値」には、どのような思いが込められているのでしょうか?
しるし(印)あるいはしるす(印す)という行為には、表情や意志の伝達など「心が伝わる」という意味もあると思いますが、真っ先に思い浮かぶのは「自分であること」を示す認証やアイデンティティなどの意味合いです。今では私たち個人を表すものはパスワードやマイナンバーになり、数字化されています。つまり名前だけが自分を表すものではなくなってきているわけです。そしてその手法は多岐にわたっている。そういう状況だからこそ、今回のテーマは意義があるのではないかと思います。

――「しるし」と聞くと、日本では決裁や決定を下す重要な場面で用いる「印鑑」のイメージがありますが、その認証方法も今後は変わってくる可能性があるということですね。
印鑑をこれだけ頻繁に使うのは日本だけですよ。海外ではすでにサインがなくなり、スマートフォンで決裁を済ませる国がたくさんあります。中国などはその代表格で、完全にキャッシュレス社会になってきています。コンビニでもスーパーでもアリペイが浸透しているから、誰も現金を持っていないんですよ。たとえば家を購入するために銀行からお金を借りる場合、日本では保証人が必要ですし、本人が何か所も印鑑を押すなどして面倒な手続きを踏まなければなりません。でもスマホ決裁なら、簡単に銀行の口座から直接お金が下り、それで家を買うこともできる。つまり、「しるし」というものが示してきた価値は、日本においては決断や緊張感を伴う「押す行為」にあったりしたかもしれないけれど、それはローカルカルチャーであって、世界に共通したカルチャーや認証方式とは限らないということです。
もうひとつ例を挙げると、中国では自転車のシェアリングサービスが急速に普及しているんですが、これもアプリをダウンロードして登録すれば、あとはスマートフォンで車体のQRコードを読み込むだけで認証され、鍵が開くんですよ。面白いのは、お年寄りはガラケーをかざすんだそうです。何でもかざせば解錠されると思っている。つまり、スマホより「かざす」行為のほうが重要なんですよね。そう考えると、将来的にはひょっとすると手をかざすだけで自動ドアのように開いたり解錠できたりするようになるかもしれない。要はアイデンティティがわかればいいわけですから。声や顔とAIと組み合わせた認証のプラットフォームも主流になるでしょうしね。

――今回のコンペに期待することは?
これだけ認証方式がどんどん変わっていく時代ですから、今回の応募作はモノだけでなく、システムを提案してくる人もいるのではないかと思います。シヤチハタの名はすでに日本のカルチャーですから、モノではないOSをつくったところで、そのブランド力は揺るがない。そこが強みだと思うので、ぜひ面白いシステムの提案にチャレンジしてほしいですね。
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シヤチハタ・ニュー・デザイン・コンペティション
◯ 応募受付期間
2018年4月1日 日 ── 5月31日 木 24:00◯テーマ
「しるしの価値」。自分であることの「しるし」(アイデンティティ)を表すためのプロダクトもしくは、仕組みをご提案ください。◯応募資格
・個人、グループ及び企業、団体。年齢、性別、職業、国籍不問。
・入賞した場合、10月12日(金)18時30分から東京都内で行われる表彰式に参加が可能なこと。(交通費補助あり)○審査員
喜多俊之(プロダクトデザイナー、喜多俊之デザイン研究所 代表)
後藤陽次郎(デザインプロデューサー、デザインインデックス 代表)
中村勇吾(インターフェースデザイナー、tha.ltd 代表)
原研哉(デザイナー、日本デザインセンター 代表)
深澤直人(プロダクトデザイナー、NAOTO FUKASAWA 代表)○特別審査員
舟橋正剛(一般社団法人未来ものづくり振興会 特別理事、シヤチハタ株式会社 代表取締役社長)
岩渕貞哉(「美術手帖」 編集長)◯賞
グランプリ1作品(賞金300万円) 準グランプリ2作品(賞金50万円) 審査員賞5作品(賞金20万円)特別審査員賞1作品(賞金20万円)※応募方法、その他詳細は公式サイトをご確認ください。
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深澤直人 Naoto Fukasawa
プロダクトデザイナー。Naoto Fukasawa Design 代表。2013年より第5代日本民藝館館長、2014年より多摩美術大学統合デザイン学科長。国内の大手メーカーの他、イタリア、フランス、ドイツ、スイス、北欧、アジアなど世界を代表するブランドのデザインやコンサルティングを多数手がけている。著書に『デザインの輪郭』(TOTO出版)、共著書『デザインの生態学』(東京書籍)。
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