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【連載】ART&DESIGNの仕事 第4回 教育普及学芸員:郷泰典

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美術館で活躍する学芸員というと、研究や展覧会企画の担い手というイメージが根強いが、教育普及を専門とする学芸員を抱える美術館も少なくない。1980年代に最初のムーブメントを迎える教育普及の歴史は長く、現在では、首都圏から地方美術館まで、学校との連携などさまざまな形で教育普及プログラムを実施している。元フリーランスのワークショップ・プランナーで、東京都現代美術館教育普及担当として7年目を迎える郷泰典(ごう・やすのり)さんに話を聞いた。

Q 教育普及の役割について教えてください

展覧会以外の方法で、鑑賞者と作品の橋渡し役やつなぎ役となるのが教育普及です。展覧会にあわせた鑑賞プログラムや講座の用意から、学校向けの対応も一手に引き受けています。東京都現代美術館の教育普及の部署に所属する学芸員は、僕を含めて3名です。ちなみにその他の部署は、チーフキュレーター1名、企画担当が9名、コレクション担当が4名在籍しています。

美術館がやっているのは社会教育ですので、「教育」普及といっても学校教育とは異なります。教育普及で提供するのは、能動的に学びをつかみにくる場所。自分自身で何かを見つけたり発見したりしていく場です。もちろんこちらにも目的やねらいはありますが、その通りにならないことも多い。僕自身は教育をやっているという意識はなくて、個人的には、現場でいかに参加者と楽しく過ごすかというのを大切にしています。教育普及が目指す究極は、我々の仕事がなくなるということですね。誰もが自立して能動的に見ることができるようになるということです。


Q 現在のお仕事に就かれたきっかけは?

大学は理学部でしたが、美術が好きだったことから、卒業後はギャラリーや美術関係の出版社など、美術に触れる仕事をしていました。僕はずっと、自分自身が好きな美術を人に伝えるための方法を探していたんです。出版も伝えるという意味では広がりはありますが、出版された後にそれがどうなっているのかはわからないなと思った。そんな時にビジターとして参加したのが世田谷美術館の教育普及プログラムで、それがすごく面白かった。「美術館や美術の良さを伝えるにはこういうやり方もあるのだ」と気がつき、世田谷美術館の教育普及プログラムのボランティアを2年程やりました。現場で実践しながらノウハウを学んだんですね。

その後、学ばせていただいた場である世田谷美術館の承諾を得て、フリーのワークショップ・プランナーとしての活動を始めました。その時期が10年程あります。世の中的にワークショップの需要が増加してくる一方で、ひとつの場所でじっくりやってみたいという欲求もではじめていたところに、東京都現代美術館の教育普及担当学芸員の募集があったので、ひとつの所でやってみるということもいいのではないかと考えて、現在の職場に行き着いたという経緯があります。

Q 現在開催中の「オバケとパンツとお星さま」は郷さんが企画された展覧会だそうですね。

教育普及担当が展覧会企画の主担当になるのはイレギュラーなことでして、本企画も展覧会を一からつくったというより、通常の活動の延長線上で自然にできてきたという感覚です。美術館には「走らない」「さわらない」「さわがない」と、3つの約束事があります。でも子ども達はだいたいそれをやるんですよ(笑)。作品を保護するためには絶対に必要なルールだけれども、子どもにとってはやりたいこと。だから今回の、この展覧会の中だけはやっていいことにして、逆説的にそのルールの必要性を伝えられないかなと考えました。サブタイトルが「こどもが、こどもで、いられる場所」であるように、作品を見せるというよりは、そこで子ども達が見せる振る舞いを見てもらう展覧会だと思っています。子ども達と接していると、自由時間に見せてくれる行動が面白いんですね。絵の前で、その絵についておしゃべりしている子どもがいたりだとか。それは、子どもが能動的に自立して作品を鑑賞している風景なんです。そういう場が展覧会を通して実現できないかなと。

Q 教育普及の今後についてどう思われますか?

現在は、教育普及のやるべきことは一通り出そろっていると思いますし、参加者の層も厚くなり、いい時代にはなっていると思います。しかし、だからといってアートが社会一般に広まっているかというと、まだまだ一部の限られた人達の間でしか動いていない狭い世界ですよね。だからこそ、子ども達にこういう世界があるということを伝えるのが大切だと思います。小さい頃に多様な経験をすることで、大人になってからの引き出しが増えるということですね。僕自身が小さい頃、母親に工作教室などに連れて行ってもらった経験がありまして、自分の中にそういう経験がなかったら今のような仕事はできなかったよなと。そうした経験が私の活動の源になっているところがあります。教育普及の成果や効果は見えづらくもありますが、自分自身が身をもって成果なのかなと思います。


(文・写真=友川綾子


【プロフィール】
郷泰典 ごう・やすのり
東京都現代美術館 事業推進課 教育普及係長 学芸員
ギャラリーと出版社勤務等を経て、1998年より、フリーのワークショップ・プランナーとして活動。作品と鑑賞者とをつなぎ、日常生活におけるアート体験へと導く、主に子どもを対象としたワークショップ・プログラムを企画し、全国各地の美術館・学校・病院などで実施。2007年より現職。

▽郷泰典さんが主担当を務めた企画展
「オバケとパンツとお星さまーこどもが、こどもで、いられる場所」
(WEB: http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/146/
会期:2013年6月29日(土)〜9月8日(日)
会場:東京都現代美術館 企画展示室1階
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団、東京都現代美術館



画像上_東京都現代美術館にて、郷泰典
画像下左_2013年夏の親子ワークショップ「オバケのかかしとパンツのかかし」の様子
画像下右_「オバケとパンツとお星さま」展、展示風景 デタラメ星座協会《デタラメ星座群》(2013年)