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【連載】ART&DESIGNの仕事 第9回 照明家:松本永

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光を扱う「照明家」の仕事。「光が存在しなければ、ものは見えない」という事実からもわかるとおり、その仕事は展覧会や舞台、映画など、あらゆる「見せる」ことが必要なシーンを支えている。シチュエーションにあわせた照明をデザインするためには何が必要か、また、よい照明とは何か。舞台照明の現場から、様々な分野に活動の幅を広げている照明家・松本永(まつもと・えい)さんに話を聞いた。

Q 照明家のお仕事について教えてください

展覧会や舞台の制作意図に基づいて照明プランを立て、照明機器の操作をします。伝える側と見る側を、どういう雰囲気や空間で、どうつなぐのかという、接着剤のような役割を担うのが照明家です。
光にもオレンジ色、蛍光灯のような白い色、太陽のような明るい色など、様々な色があり、それぞれ柔らかさや質感が異なっていますね。その様々な光の中から、伝える側が持つイメージを見る側にそのまま伝えられるものを選びます。例えば2012年3月にSUNDAY ISSUEで行われたタイポグラフィの展覧会「TYP Exhibition. o1」展では、日本で一番白い紙に、白の艶のあるインクで文字がプリントされている作品の照明を手がけました。目を凝らしてよく見なければ、その文字はほぼ見えません。紙の白さのインパクトを残しつつ、紙面から少し盛り上がった白いインクで印刷された綺麗な文字を、どう見せるかというのが勝負でした。ギャラリーで一般的に使用される照明よりも色温度が高いLED光源を使用して紙の白さを引き出し、他の作品より硬い質感の光を当てることでインクの反射が引き立つように工夫しました。

Q どのような分野でお仕事をされていますか?

もともとは舞台照明を専門としていました。数年前からアートの展覧会や映画の照明の仕事もしています。最近はバッグのブランドや車の展示会、CMの照明など、さらに分野が広がってきました。展覧会は「松堂今日太と宮本亜門 2人展“Unseen”ミエナイモノ」展、「ベッドに帰るように Like going back to」展などを手がけています。
分野により、伝える側と見る側の関係性は異なってきます。舞台はライブであり、演出に観客が身を任せることを要求しますので、シーンの時間変化が勝負になることが多いです。一方でアートは、鑑賞者が自分の好きなタイミングで長時間見ることができるので、シーンの完成度がより要求されます。映画では、繰り返し見ること、ストップモーションで見られるということも想定しなければいけない。そうした違いを理解し、空間デザイン的な感覚を持つことで、舞台照明のスキルは各分野での照明に応用可能です。

Q 照明家のお仕事をされるようになった経緯は?

東京工業大学在学中に演劇部に属していて、そのまま舞台照明の現場に入りました。照明家を本業とするまでには寄り道もしています。25歳から30歳までは小さな出版社で営業と編集職をやっていました。その間も、学生さんや社会人の小劇団の照明をするなど、「週末照明家」のようなことはしていました。出版社の仕事を続けていくことに迷いが出てきたとき、趣味だった照明の仕事は「まだやってみたい」「もっと追求したい」と思えました。それで、知り合いだったプロの照明家の誘いがあったこともあり、まずその知り合いの照明会社に所属しました。趣味が仕事になったというわけですね。

Q 技術はどのように身につけましたか?

2か月現場にいれば、専門学校の2年分のスキルが身に付きます。どんな空間、状況でも照明の設置ができるように、仮設工事から屋内建築の電気配線までを勉強しました。これは、実際に現場で工夫しながら得た知識がほとんどです。正式に工事が可能なように電気工事士の資格も取得しました。
また、日頃から光をよく観察していましたね。例えばお芝居にはいろいろなシーンがあるので、そのシーンで表現したいことが「光のボキャブラリー」として自分の中のストックになければ再現できません。朝日にもいろいろな種類がありますよね。嵐の前の光はどんなだとか、普段から意識して観察することでストックを増やしました。

Q よい照明とはどのようなものでしょう?

作品を見たときに照明が邪魔にならずに集中して鑑賞できるというのが、最低限であり最高のことです。展覧会の場合は、1つの作品を1時間見ていてもいい。そうしたシチュエーションで照明が気にならないよう、作品を包み込むように光を当てます。その上で、作品に内在する世界観により、「ここはニュートラルにしよう」とか、「柔らかい光で包もう」などど、見せ方を選んでいきます。展覧会で照明が特に褒められる場合、それはバランスが崩れているということなので、失敗を疑わなければいけないですね。
一方で、照明を見せなくてはいけない現場もあります。振付家でアーティストの香瑠鼓さんと一緒にやっている創作公演は、ダンスと演奏、それに照明が舞台上で即興的に絡み合うというものです。そういう場合には照明が伝える側と見る側に割って入るようなこともします。照明家には、アーティスト的な我を張っていいシーンと、職人として場をつくらなければいけないシーンと、2つがあるということですね。

Q 照明家の立場からは世間の展示はどう見えますか?

ギャラリーや店舗などで展示を見ると、照明の当て方が気になることが少なくありません。特に現代美術の展示の場合、アーティストが積極的にコントロールをしていなければ、照明に関しては良くないものが多いですね。制作にかける予算が少ない場合、照明家を使うことはまずない。自分の作品を発表する最後の段階で照明にひと手間をかけるということが、作品の見え方・伝わり方に大きく影響するということを、ギャラリーの方、アーティストの皆さんに知っていただきたいです。

(文・写真=友川綾子


【プロフィール】
松本永 まつもと・えい | 1963年生まれ
照明家
東京都生まれ。東京工業大学理学部卒業。径書房にて書籍編集•営業の傍ら舞台に関わる。1993年より舞台照明を本業とする。演劇・ミュージカル・日本舞踊から、映画やアート作品の展示まで。 単なる「見る・見られる関係」の垣根を取り払い、「時間を共にする空間づくり」を目指している。
eimatsumoto.com


▽松本永さんが照明を担当される舞台
創作公演「Apiture」出演:香瑠鼓/Apicupia
会期:11月7日(木)〜11月9日(土)
会場:Geki地下リバティ(下北沢)
詳細情報:http://www.kaoruco.net/



写真上_SUNDAY ISSUEにて、松本永さん
写真下左_松本永さんが照明を手がけた展覧会「TYP Exhibition. o1」 会場風景 © 本浪隆弘
写真下右_松本永さんが照明を手がけた植物園でのパフォーマンス公演『残夢ー ZANMU 2012』 © Toranoko Performing Arts Company