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【連載】ART&DESIGNの仕事 第14回 テクニカルディレクター:遠藤豊

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池袋芸術劇場前にて、遠藤豊さん


今回ご紹介する遠藤豊(えんどう・ゆたか)さんの肩書きはテクニカルディレクター。パフォーマンスやアートイベントで照明、音響、映像などが必要となったとき、そのシーンに最適な技術者をコーディネートし、統括する役割を担う。こうした役割には、テクニカルに関する知識も必須だが、それ以上にアーティストの考えや作品の意図を理解し、技術者の持ち味を最大限に引き出すスキルが期待される。プロジェクトの裏方として舵取りと調整を一手に担う、その仕事について話を聞いた。


Q お仕事について教えてください

アーティストやクライアントと話して、アイデアをどのように実現できるのか、具体的にどう進めていくかを考えます。どんな機材を使用してどう制作をすれば効率よく進められるかをプランニングし、技術者を人選して各自に制作意図を伝えて作業に落とし込んでもらい、施行やセッティング調整、会場での運営指導なども行います。テクニカルの1部門を請け負うのではなく、企画全体に関わり、クリエイティブとテクニカルをつなぐのが僕のスタイルです。

Q 具体的な例をお聞かせいただけますか?

昨年の7月に国立代々木競技場で行われた三宅一生による企画公演「青森大学男子新体操部」では、演出と進行の全般をサポートしました。手伝ってほしいと声がかかったとき、出演者は青森大学男子新体操部の部員、衣装はHOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEが、演出は振付家のダニエル・エズラロウ、映像を中村勇吾、音楽をOpen Reel Ensembleがそれぞれ担当することが決まっていました。チームはできていましたが、それぞれは面識がなく、企画だけが進んでいる状態でした。まず、どういうものにしたいかを各アーティストと話し、その中で進め方の方向性を決めていきました。演出家とは2度青森を訪ね、新体操部のコーチや部員とリハーサルをして、コンセプトの共有、練習の進め方を決め、その場にいなくてもやり取りが可能なように、ビデオで練習風景を送ってもらい、それを見て演出家とともにアドバイスをしたりしていました。



「青森大学男子新体操部」公演風景 © Issey Miyake


また、演出家のダニエルは、創作に際して音源の決定を急務と考え、Open Reel Ensembleの音源のみならず、作品全体の音の流れを客観的に構成する必要があるとして、僕とも三宅一生さんとも交遊のある畑中正人さんに音楽監督を依頼し、音楽を組み上げていきました。

イベントの直前から前日にかけては、テクニカルスタッフを率いて音響や映像の仕込みをしていきます。リハーサル中に表現方法が変更されることもあるので、それぞれのスタッフが納得して変更に応えてくれるように意図を伝えることも僕の役割でした。細かいことまで言うと、弁当の中身のアドバイスまでします(笑)。揚げ物は少ない方がいいとか、この時間帯はお菓子にしようとか。

Q こうした仕事をするようになったきっかけを教えてください。

高校2年生のとき、ダンサーとしてイギリスのエジンバラ・フェスティバルに参加しました。僕はその頃、公演に出演をしても誰も見に来てくれないような田舎でダンスをやっていたので、エジンバラでは午前中にビラを配ると夜の公演に見に来てくれることが驚きで、「こういう世界があるんだ」って思いました。ダンサーになろうと大学でも洋舞コースに入り、そこで創作ダンスや仲間を集めて一緒に公演をつくることに興味が移っていきました。その頃はお金がなかったので、照明や音響を手伝って舞台を見せてもらったりしているうちに、自分でもそうしたことができるようになってきた。音響や照明を自動で動くようにプログラミングして、舞台袖でピッとボタンを押して起動させ、舞台に上がって自分で踊るというようなこともやっていました(笑)。

自主企画でパフォーマンスをしていたりもしましたが、次第に限界を感じるようにもなり、一度はその道を離れてダンスもやめました。2年くらいはスペースシャワーTVで番組制作をしたり、WEBプログラムの通信教育講師をしたりとバイト生活でしたね。そうしたら、昔の仲間から、六本木ヒルズのオープン時にパフォーマンスをやるから手伝ってほしいと声をかけられ、プロデューサーとして参加したんです。するとやっぱり面白くて、それがきっかけでバイトをやめて今の会社をつくることにしました。

3年前にミラノサローネでキヤノンがインスタレーションを発表したのですが、そこに参加していたアーティストの高橋匡太さんのテクニカル面のサポーターとして声をかけてもらったのがまた転機となり、その仕事から様々なジャンルに仕事の幅が広がっていきました。もともと僕は舞台をやっていましたが、建築・アート・デザイン業界の人と仕事でつながって、そのつながりを舞台でも活かせるようになりたいと思っていて、それが実現するようになってきました。



Canon「NEOREAL」(2010年) Photo by Daisuke Ohki



Q 現在のお仕事の意義をどのような所で感じますか?

テクニカル面に留まらず、プロジェクト全体を見る立ち位置になったことで、表現にまで関わることができるようになってきたことです。ただ、アーティストはゼロから何かを生み出しますが、僕はそうではない。ダンサーだった頃はそこが悩みでした。一方で、自分がサポートしたいと思えるアーティストの表現がより良くなるために何ができるかというアイデアはいくらでも出てくる。今はそれが自分の持ち味だと思っています。そうした自分の立ち位置を活かせる環境づくりを自分自身でも創出していかなければならないし、最近はそれが少し見えてきた気がします。高校生のときにエジンバラで感じた、表現が社会の中でフラットに存在する状況を生み出したい。そのためには、どんな立場で関わっても、自分のベストが出せるように考えていきたいですね。

(文・写真=友川綾子


【プロフィール】
遠藤豊 えんどう・ゆたか|1977年生まれ
新潟生まれ。コンテンポラリーダンスを中心に、音楽、映像、デザイン、コンピューターテクノロジーとの関わりを独自に作り出す。02年以降はアートディレクター、プロデューサー、テクニカルコーディネーターとして様々な分野の企画に携わる。05年トランスボーダーな表現と創造的なディレクションを行うための意思として有限会社ルフトツークを設立。「曖昧なメディアの媒介としての役割を確立」しようと活動を始める。プロデュースやテクニカルスタッフとアーティストの、また技術とアイデアの架け橋として、社会的役割を果たすためのプロダクションを成立させることに努める。2012年よりルフトツーク・ヨーロッパをアムステルダムに設立。拠点の境目を無くし、感覚の積極的な交流と遍在化を目指す。

▽遠藤さんが演出助手・進行を手がけた公演『青森大学男子新体操部』が映画化
『FLYING BODIES』
監督=中野裕之
テアトル新宿にて11月30日(土)〜、テアトル梅田にて12月14日〜19日、ほか。
http://www.flyingbodies.jp