アートとデザイン業界で働きたい方のための求人情報

Column

【連載】ART&DESIGNの仕事 第15回 美術コーディネーター:古市保子

SHARE ON

四谷の国際交流基金にて、古市保子さん


海外との文化交流を一手に担う国際交流基金に、「美術コーディネーター」という肩書きで長年活躍をしている人がいる。アジアや大洋州地域との美術を通じた交流事業に携わる古市保子さんだ。日本国内の美術にまつわる事情に精通し、担当する地域の文化のみならず、政治、経済、地理など、地域を包括的に理解し、ネットワークを築くことで、外交政策をふまえて国際文化交流事業を企画し、実現していく。これまでに古市さんが手がけてきた仕事とその想いを聞いた。


Q まず、国際交流基金について教えてください

国際交流基金は国際文化交流を総合的に行う日本で唯一の専門機関です。事業予算のかなりの部分が、外務省から運営費交付金という形で支出されています。独立行政法人として法律で定められた5年単位の中期計画を策定し、その中期計画をもとに年度毎の要素も踏まえての年度計画をつくり、具体的な企画をつくっていきます。そのため、それぞれの事業企画は地域・国別事業方針や事業分野別事業方針と連動したものです。と、かなり堅い紹介をしてしまいましたが、アーティストやギャラリー、美術館の方にとっては、国際交流基金は海外に日本のアートを紹介する際の窓口といえます。あえて例えるとしたら「商社」ですね。


Q コーディネーターの仕事はどのようなものですか?

肩書きはコーディネーターですが、役割としてはプロデューサーです。「ヒト」「モノ」「カネ」の3つの側面からプロジェクトのマネジメントをしています。企画力とプロデュース能力が勝負どころといえます。すべてにおいて最適な場所と人材をコーディネートすることが肝心です。そして、外交政策や事業方針という大枠のなかで、実際の事業企画があるわけですから、進むべき方向と現場の実状を照らし合わせて、様々なレベルで調整をしなければなりません。どういうプログラムをつくれば、様々なステイクホルダーも納得し、対象となる地域にとっても最大の効果をあげることができるか。そこを考えだすのが重要なポイントです。

また、公的資金で成り立っている事業ですので、そのお金が有効に使えているかどうか、自分自身が手がける事業を常に客観的に評価する必要があります。


Q 最近担当された展覧会「Media/Art Kitchen - Reality Distortion Field」について教えてください。

「Media/Art Kitchen - Reality Distortion Field」はメディア・アートをテーマにした展覧会です。東南アジアのキュレーター10名と、日本のキュレーター3名が共同して企画するというもの。展覧会はジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、バンコクに巡回しお披露目しました。




(上)会場となったインドネシア国立美術館、(下)堀尾寛太、毛利悠子も参加したアーティストトーク


一連の企画は、まず粗い企画案をもってリソースパーソンとなってくれる専門家に相談することから始まりました。その後、より精度の高い企画書を書き、キュレーターの人選をします。日本のキュレーターは専門家にも相談しつつ私が日頃から仕事ぶりを拝見していて、この企画に適任だと思う人を選び、他国のキュレーターは国際交流基金の海外拠点のネットワークから選んでもらいました。そうして選ばれたキュレーターたちに東京に集まってもらい、1週間かけて「メディア・アートの今日的な意義とはなにか?」というテーマについてディスカッションをしました。また、日本のキュレーター(岡村恵子、会田大也、服部浩之)には東南アジア各地へ出掛けてもらい、各国で開催する展覧会を、現地の事情にどうやってフィットさせているか、必要とされる展覧会像をリサーチしてもらいました。

皆が一緒にプロジェクトを成功させるためにプロとして仕事をしなければいけないわけです。それにより個々の経験値が高まり、チームに連帯感が生まれます。それがネットワークとなり人材育成となります。正直なところ、4都市で開催した展覧会の質はそれぞれ違いが出ましたが、各国のキュレーターが共同作業をする、そのプロセスを大切にした企画でした。



インドネシアのアーティストグループ、Lifepatchによるワークショップ




Q 今後のアジア・大洋州地域の文化交流で大切なものはどのようなものだとお考えですか?

日本のキュレーターが日本だけで仕事をするのではなくて、近隣のアジア地域でも一緒に仕事をしていけるようにできればいいと思っています。日本だけが一人勝ちの時代は1990年代前半で終わっています。今後はどこかの国が主導権を持つのではなく、日本を含めてアジア全体でレベルアップをしていきたい。いまはアジアの新興国には経済発展の勢いがあるから、世界中から人や情報が集まってきているのです。ではその勢いがなくなったらどうかということも考えておかなくてはならない。ヨーロッパのように成熟することが予想される将来、経済だけではなく文化・芸術の価値を確立していかなければもったいない。そのための種まきをしていきたいと思っています。(2013年12月4日収録)


(文・写真=友川綾子


【プロフィール】
古市保子 ふるいち・やすこ
国際交流基金 文化事業部アジア・大洋州チーム 美術コーディネーター
国際交流基金において、1990年よりアジアと日本の美術交流事業を多数手がける。アジアの美術を日本に/日本現代美術をアジアへ紹介することに加え、アジアのキュレーターとの協働作業や、アジア域内の情報交流とネットワーク構築など、常に先駆的な視点で事業に取り組んできた。2013年に手がけた美術展として「Re:Quest」(韓国)と「Media/Art Kitchen」(東南アジア4カ国)等。2014年4月に新設された国際交流基金アジアセンターの美術コーディネーターも兼任。