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【連載】ART&DESIGNの仕事 第5回 弁護士:水野祐

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創造性のおもむくままに繰り広げられる創作活動において、ときに法や契約による規制は自由な活動を阻害するものとされがちだ。しかし、活動に法律家が関わることで、ルールに背かず安心してクリエイティビティーの羽を広げられるようなケースがあるという。今回は、一見すると創造の現場とは縁遠いように思える「弁護士」という肩書きで、アート、クリエイティブ・シーンを下支えする活動を行う、水野祐(みずの・たすく)さんに話を聞いた。


Q 弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください

大学入学時は弁護士になろうとは思っていませんでした。入学後にクリエイティブ・コモンズ(註1)の提唱者でもあるローレンス・レッシグの著作『CODE—インターネットの合法・違法・プライバシー』や『コモンズ』を読み、「クリエイティブと法律は決して無関係ではなく、法をクリエイティブに解釈し、読み替えていく、こんなに面白い考え方ができるんだ」と衝撃を受けました。中学の頃からサブカルチャーにどっぷりと浸かり、大学時代は周囲にものづくりをしている人が多くいたことから、僕自身も「クリエイティブ・コモンズのような、法をクリエイティブに読み替えていく仕組みをつくれたら、カッコいいんじゃないか」、「弁護士資格を取ればやれることも増えるんじゃないか」と考えて弁護士を志しました。だから、弁護士資格というのは僕にとってあくまでツールなんです。

Q どのような分野の方とお仕事をされることが多いですか?

いまの僕の仕事には3つの柱があります。映像、映画、音楽、デザイン、アートなどのクリエイティブ系と呼ばれる分野、WEBやアプリ、ソフトウエアの開発などのIT分野、それに建築、不動産関係の分野です。専門は何かと問われれば「著作権などの知的財産権です」と答えていますが、クリエイティブ系企業の顧問をしていても、著作権が直接問題となる仕事は実際には少ないです。労務問題や法律相談、WEBや契約の相談、離婚や相続問題などまで、顧問先の事情によってさまざまな仕事が発生するんですね。美術館や横浜トリエンナーレのような芸術祭の実行委員会とのお仕事では、国内や海外との契約書の作成や、運営・展示にあたり「法的に問題がないか」という相談があったりします。

Q 弁護士のお仕事以外でも活動のフィールドをお持ちですね

クリエイティブ・コモンズやファブラボ(註2)といった、新しいムーブメントに関する団体にも所属をしています。また、無料でアーティストやクリエイターの相談に乗るNPO、Arts and Lawでの活動にも力を入れています。この団体は共同代表を務めている作田知樹が2004年に立ち上げました。彼は東京藝術大学の先端芸術表現科出身で、学生時代には川俣正さんのプロジェクトに関わっていました。川俣さんのプロジェクトは公共空間まで使用する、規模の大きいプロジェクトですよね。その現場では法律と制作プランとの調整が不可欠です。しかし、当時のアートの現場には、圧倒的に法律の知識やスキルが足りていなかった。作田は文化政策の研究者でもあるのですが、弁護士が3000人ほど登録して、アートに関する無料相談や無料講座などを行政の支援を受けて行う、VLA(VOLUNTEER LAWYERS FOR THE ARTS)という団体が米国にあることを知り、その日本版として活動をスタートさせたのがArts and Lawです。現在は作田が政策研究のトップ、僕が実務のトップという形で運営しています。

Q 法とクリエイティブとの相性をどのように考えておられますか?

法律や契約を使うことでよりクリエイティブを加速・最大化させるというスタンスで、そのために僕を使ってもらいたいと思っています。僕はChim↑Pomの岡本太郎絵画付け足し事件(註3)の弁護を担当したのですが、彼らの表現行為と軽犯罪法の構成要件をポジティブに読み替えた意見書を書き、不起訴とすることができました。刑事事件の仕事は珍しいですし、あの事件は僕の中でも印象に残っています。

法律や契約には、規制や拘束するものというようなネガティブなイメージが強くありますが、柔軟な思考で設計していけば、自分たちが実現したいことを促進できる面もあります。法律を拘束という側面から解き放って、物事をうまく進める潤滑油のように捉えるマインドの必要性を感じています。

Q 今後の抱負などを教えてください

僕は新しい価値観に触れたり、かつて見たこともないものに出会いたいという欲求がすごくあって、頭を抱えたいんです。「ああ、こんなもんに出会ってしまった! 昨日までの自分なんなんやろ」みたいな(笑)。新しいことや今までにないものをつくろうとしている人たちって、そういうことを世に提示してくれる存在ですよね。
現在手がけている、山口情報芸術センター[YCAM]さんやRhizomatiksさんなどとのお仕事は、既存の法律書には載ってない相談ばかりなんです(笑)。でも、そうしたトライを常にお手伝いできる事務所にしていきたい。法務は裏方ですけれど、最終的には「あそこが法務をやっているんだったら、このクリエイターや企業は面白いかもね」と思ってもらえるようになれたらいいですね。ちょっとおこがましいかな……(笑)。

(文・写真=友川綾子

【プロフィール】
水野祐 みずの・たすく
弁護士・シティライツ法律事務所代表(WEB:http://citylights-lawoffice.tumblr.com
Arts and Law代表理事、NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事、一般社団法人マザーアーキテクチャア監事などを務める。その他、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(Creative Commons Japan)ファブラボ(FabLab Japan)LiFETONESなどにも所属。クリエイティブ分野、IT分野、建築不動産分野のサポートに特化すべく、2013年1月よりシティライツ法律事務所を開設。

▽水野祐さんが翻訳・執筆に関わった書籍
『オープンデザインー参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』
Bas Van Abel、Lucas Evers、Roel Klaassen、Peter Troxler:著、
田中浩也:監訳、川本大功、巾嶋良幸、古賀稔章、水野祐、岩倉悠子、菊地開司:訳
発売:オライリージャパン(WEB:http://www.oreilly.co.jp
2013年8月24日発売予定


画像上_青山の事務所前にて、水野祐さん
画像下左_東京都東京文化発信プロジェクト室とArts and Lawによる共催講座「Creators and Law」の様子
画像下中央_水野さんが法務アドバイザーを務めた「大友克洋GENGA展」のポスター
画像下右_水野さんが現在携わっている初音ミクのオペラ『THE END』のYKBKによるドローイングが施されたフライヤー


註1)クリエイティブ・コモンズ_著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示を手軽に行えるようにするための 様々なレベルのライセンスを策定し普及を図る国際的プロジェクトおよびその運営主体である国際的非営利団体。
註2)ファブラボ_3Dプリンターやカッティングマシンなどの工作機械を備え、個人による自由なものづくりの可能性を広げるための市民的な実験工房ネットワーク。工房のネットワークは世界50か国以上に広がる。ファブラボを通じて生み出されるデザインとその制作過程は、そこから学び、使用したいと考える個人のためにオープンソースとすることが推奨される。
註3)岡本太郎絵画付け足し事件_2011年5月、渋谷駅の連絡通路に展示されている岡本太郎作の壁画《明日の神話》に、福島第一原発事故を連想させる絵画が付け足された事件。事件発覚後、アーティスト・グループChim↑Pomメンバーは、自分たちが掲示したと明らかにし、軽犯罪法違反の疑いでメンバー内の3名が書類送検されるも、その後に不起訴処分となった。