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【連載】ART&DESIGNの仕事 第2回 デザイナー:阿部太一(GOKIGEN)

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デザインの枠を超え、イベントやワークショップの企画・運営まで手がけるという、柔軟な活動スタイル。そこから生まれるデザインワークへの刺激と変化を取り込みながらも、目指すは「デザインをすることで、社会をご機嫌に」すること。グラフィック、エディトリアル、ウェブのデザインをベースに活動しているGOKIGENの阿部太一さんの答えは明快だ。そこには、今の時代にデザインするということ、また「つくる」ということの根源に向けた眼差しがある。独立を機にさらに活動の幅を広めようとする阿部さんに、デザインに対する想いを聞いた。

Q これまでどのようなお仕事をされてきましたか?

武蔵野美術大学を出て広告会社に3年間務め、その後、アートディレクターの岡本健さんの事務所(okamototsuyoshi+)に4年ほどいました。岡本さんの事務所は書籍のデザインがメインで、写真や映画を含めたアート関係の仕事は全体の3割くらいです。在職中には横浜美術館で開催された「高嶺格:とおくてよくみえない」展のサインやキャプション、カタログのデザインを岡本さんのディレクションのもと手がけています。
個人での仕事が増えてきたことと、経験値がたまってきたことから、岡本さんに「いい時期じゃない」と背中を押してもらい、この6月に独立をしました。


Q デザインに興味を持ったきっかけは?

モダン・デザインの始まりが、「産業革命以降の世界大戦の傷跡を抱え、産業により近代化する社会において、人間性を取り戻すにはどうしたらいいか」ということだったように、「つくることで人間性をどう取り戻すか」というのが、僕の中にずっと存在するテーマなんです。もっとプリミティブな、「人はなぜつくるのか」ということにも関心がある。現代のデザインは基本的に経済優先でマーケットに向けたもの。美大に入学する以前からそうしたことに対する疑問があり、デザイン論や思想を深く学んできました。ただ、どんなに格好のいいことを言っても、デザイナーとしては実践が伴わなければ評価されません。普段から頭の中で考えているデザインに対する想いと、仕事をすることでの実践。デザイナーの仕事は、そのバランス感が楽しいですね。

Q 思考と実践がかみ合うのはどんなときですか?

地域と密着したイベント「寿灯祭」や、まちづくりのワークショップ「ひらがな商店街と旅しよう」でのデザインワークですね。広告や出版の仕事は、すでにテンプレートが決まっている場合が多いのですが、こうしたイベントでは企画そのものものから組み立てているので、デザインも全方位的に考えてアウトプットすることができます。そうした手法が自分の中で腑に落ちました。現場でテンプレートそのものを自分でつくったり更新したりすることが、普段使ってこなかった部分のデザインの運動神経を鍛えているような面白さを感じます。

Q デザイナーでありながら、まちづくりのようなことにも関わることが多いということでしょうか?

一般的に、デザイナーは間接的にものごとと関わることが多い職種だと思います。しかし、まちづくりや地域に密着しているイベントに携わると、自分のデザインがどういうふうに受容されて活用されているかを肌身で感じることができます。そこでは、幼少期や学生時代の過ごし方も含めた自分自身が生身で試されるという感じさえする。そうした経験は確実にデザインワークに跳ね返ってきます。広告や出版の仕事は、デザインを届ける先のレンジが広いところが魅力ですが、その一方で、もっと狭いエリア、例えば横浜なら横浜という特定のエリアでデザインがどう活きてくるか、生活とデザインがどう結びついてくるかにも興味があります。

Q GOKIGENという屋号の由来は?

娘が生まれて半年ほどの頃、高熱が出たので慌てて病院に行きました。ドキドキしながら診察室に入ると、お医者さんが「ご機嫌だから大丈夫ですよ。」って(笑)。その一言にびっくりしたんです。ご機嫌な状態って、心と身体が一致していて、無理していない状態。そうであれば大丈夫なのだと。これは実は全てに通じることだ、自分のデザインが目指すことはそこじゃないのかと気が付かされた瞬間でした。ですから、これまでのデザイン概念を超えて、誰かがご機嫌になるデザインを考えてみようと。個人の幸せとより接近するものをつくりたいです。

これからもオルタナティブなデザインの方向を探れるような、自由度の高いアートイベントなどの仕事にも関わりつつ、ある程度テンプレートが決まっているような既存のデザインワークとも行き来をしながら、双方のスキルが響き合って向上していくように仕事をしていければと思っています。

(文・写真=友川綾子


【プロフィール】
阿部太一 あべ・たいち|1981年生まれ
デザイナー
GOKIGEN 代表 (WEB: http://www.bbdg.jp
武蔵野美術大学基礎デザイン学科を卒業後、広告会社を経てデザインオフィスokamototsuyoshi+に勤務。ブックデザイン、展覧会のグラフィック等に携わる。2013年6月デザインオフィスGOKIGENを設立。 グラフィック、エディトリアル、WEBデザインをベースに領域を限定しない様々なプロジェクトに取り組んでいる。



画像上_シェアオフィスnitehi Studioにて、GOKIGENの阿部太一
画像下左_ドイツのベタニエンで行われた村井啓乘(ひろのり)の個展「Invitation to a Picnic」ポスター。ドイツと日本とのメールのやり取りでビジュアルが決まっていった
画像下右_阿部が告知デザインと空間構成を手掛けた横浜寿町での第3回寿灯祭の様子。空間構成は建築家・土屋匡生(まさと)(WIZU Inc.)との共作。(2013年12月)